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オリンピック会場の空間線量測定結果について

2013年8月28日 ちょぼちょぼ市民:田中一郎

1. 主として放射性セシウム由来のガンマ線が大半と思われる。結果はレジメにある通りで,福島第1原発事故以前の東京の平均的な空間線量である約0.03μSv/hを2~5倍上回り(中には10倍以上あり),原発事故の影響が無視できないレベルである。

2. 全体的に線量水準が高いことに加え,ところどころに特に線量が高いホット・スポットが存在することも推定される。しかもそのホット・スポットは,東京湾沿岸の多くの競技場予定地域だけでなく,千駄ヶ谷(体育館)・皇居付近・調布市などの東京都各地,更には埼玉県や横浜市などにも一定程度広がっている可能性は否定できない(今回の測定結果が高い地点がある)。

3. 観測された空間線量の原因のガンマ線は,主として放射性セシウムであると思われるが,しかし,放射性セシウムのあるところには必ずと言っていいほど放射性ストロンチウム(ベータ核種)が存在し,また放射性ヨウ素(半減期約1,570万年のヨウ素129:ベータ・ガンマ両方)やプルトニウム(アルファ核種)なども存在すると言われる。それらは放射性セシウムに比べれば濃度は低いかもしれないが,呼吸や食物によって人間の体内に取り込まれれば,猛烈に濃縮されつつ特定の臓器に集中して長期間滞留するため,放射性物質としての危険性は放射性セシウムの比ではない。

4. 新聞報道によれば,猪瀬直樹東京都知事は,オリンピック招致を何が何でも実現したいがため,懸念されている放射能汚染について「東京の現在の放射線量はロンドン,パリ,NYと全く変わりがない」と発言しているようだ(2013.8.24朝日新聞2面)。しかし,これは事実に反する無責任な発言である。東京都が,新宿にあるビルの屋上に空間線量計を置いて,汚染実態とはかけ離れた計測の仕方をしているから,このような歪んだ認識に陥るのではないか。

5. 現在の東京は,空間線量の値からみても,各地の土壌検査の結果からみても,あるいは福島第1原発からの放射能雲の影響から見ても,チェルノブイリ原発事故後のウクライナの首都キエフとよく似た状況下にあるのではないか。放射能汚染のないLDN,パリ,NYなどとは決定的に違う。そのキエフでは,かつて子どもたちは避難させられているが,東京では子ども達や妊婦や若者らの放射線感受性の高い世代を守ろうという動きはなく,その延長線上に今般のオリンピック招致と猪瀬直樹知事の発言がある。

6. 今回の我々の測定は,オリンピック会場地域を悉皆的にローラー作戦で調べ上げたわけではない。予定地の数カ所をピックアップして,たまたまそこを調べてみたら,結構放射能の値が高かったというものである。ここから推測されることは,まだまだ東京には放射能汚染が高いところが隠れている,危険なところがたくさんあるということを意味しているのではないか。東京23区でも,東部の葛飾区,墨田区,足立区や江戸川区,江東区には,相当に放射能汚染の高い地点が散在している。

7. 更に,オリンピックでは,東京湾内でも競技が行われる可能性があるが,ご承知の通り,東京湾は,関東北部などの山林などに降った大量の放射性物質が川の流れに乗って,今現在も次々と上流から東京湾河口へ向かって流れ降りてきている。今後も相当長い期間にわたり,東京湾やその海底を汚染し続けるだろう。東京湾の放射能汚染の進展は今後のもう一つの大きな懸念材料である(我々の装備では東京湾内までは調査できず)。

8. 加えて,日本の飲食に関する放射能汚染検査の態勢は極めて貧弱で,検査の大半は米と牛肉に偏り,海産物も特定の魚介類に特化してしまっているような状態である。なにしろ流通する飲食品の数量に比較して,検査されている飲食品の数量は無視できるほど少ない。こんな状態では,意図しない放射能汚染物が飲食品に紛れ込む危険性は十分にあり,かつ,日本の飲食品に関する放射能残留規制値も高い値に放置されたままである。日本の流通食品の産地偽装なども横行して,それが放置された状態だ。

9. 上記から申し上げられることは,高止まり気味の空間線量から鑑みて,その外部被曝の危険性が無視できないことに加え,汚染された土やほこりが舞い上がってそれを吸いこんでしまう呼吸被曝や,飲食類からの意図しない内部被曝も考えられ,東京でのオリンピック参加者に対しては(観客も含め),その被曝回避と健康上の安全を担保しきれないというのが偽らざる実態ではなかろうか。

10.最後に,オリンピック開催の是非については,今回の測定チームは「ニュートラル」=つまり,様々な考え方があり,参加された方々の考え方や立場もいろいろであり,チームとして特定の見解をとるものではない。しかし,私個人の考えを若干申し上げれば,同じく朝日新聞の報道で猪瀬直樹知事は「福島の問題は早急に解決しないといけないが,東京五輪開催と直接の関係はない」と発言したそうである。果たしてそうだろうか。東京は福島県の原発が発電した電気の大半を費消してきた大都市であり,また東京電力の大株主でもある。過去を遡れば,東電から巨額の配当も受け取ってきた。その発電所が事故を起こし,福島の方々は事故後2年半を経過しても,事故前の生活も経営も再建できず,日々放射線被曝の不安にさいなまれている。東京は直接事故を引き起こした張本人ではないけれど,福島の現状と「関係がない」などと言えた義理ではない。オリンピック開催には数千億円もの費用がかかり,巨額の財政・民間の出費が見込まれているのだから,私はそうしたお金は,少なくとも当分の間=福島の方々が安心して再建・再出発ができるまでの間は,福島の方々への支援に使われることを強く望むものである。決してオリンピック優先ではないはずだ。

以 上

他の資料

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