私たちは「オリンピック候補会場の放射線を測る市民グループ」です

IOC会長への手紙

ジャック・ロゲ伯爵 様
会長
国際オリンピック委員会(IOC) およびIOC委員ならびに評価委員の皆さま

オリンピック候補会場の放射線を測る会
コーディネイター

2013年6月15日

拝啓

オリンピックおよびパラリンピック開催のため、貴下および関係者の皆さんの多大な努力に感謝いたします。それは世界の友好と平和に大きく寄与するからです。

本日、お手紙を差し上げるのは、東京オリンピック開催の際に競技場、施設、その他の会場となる予定の37の場所の放射線レベルを、私たちが測定した結果をお知らせするためです。私たちのグループ「オリンピック候補会場の放射線を測る会」(以下、「放射線を測る会」)は、東京およびその周辺に住む,約40名のボランティアからなっております。私たちは、2020年に予定されている夏季オリンピックおよびパラリンピックの開催都市候補として、マドリッド、イスタンブール、および東京が現在残っており、IOCがまもなく最終選考の過程に入ることと理解しております。

IOCは、オリンピック開催都市の選考過程では、さまざまな条件を確実に検討されることと思いますが、私たちとしましては、2011年3月11日の大震災によってもたらされた東京電力福島第一原発の爆発事故によって放出された放射性物質に汚染された地域が、東京も含めて広大に広がっており、2年経過した今もなお事故収束の見通しが立っていないことを憂慮しています。

オリンピックおよびパラリンピックの精神は、世界中からの選手たちがその技と能力を、公正なスポーツ競技において発揮して競い、それを通じて友好と平和の輪を広めるということにあります。その選手たちの多くは青少年であり、また観客の中にも多くの青少年が含まれるでしょう。青少年たちは放射線被ばくに感受性が高く、青少年が不必要に被ばくすることは極力避けるべきであります。この危険性への注意を喚起することは、大人の市民(特に汚染地東京に住む私たち)の倫理的な責任です。

東京のオリンピック招致委員会は、東京都内と近隣県に合計37の施設(競技場、選手村、メディアセンターなど)を選定・指定していますが、招致委員会はこれら施設の放射線量に関する情報を公表していませんし、そもそも測定した形跡もありません。この怠慢を憂慮し、私たちは、それらの施設における放射線量を自分たちで測定し、関心をもつ皆さんに情報をお知らせしようと決意しました。この皆さんには、IOC、全世界の選手、観客、市民を含みます。

以下では、測定プロセスと結果の概要を簡単に述べさせて頂きます。「放射線を測る市民の会」は、放射線被ばくの可能性への関心を共有する市民のグループであり、今年3月30日に発足しました。以来、37の予定施設(競技場、スポーツ施設、および予定地)を、自分たちで持ち寄った数種類の放射線測定器を用いて測定しました(北海道、宮城の施設は東京から遠いので除外)。測定活動は、4月から5月まで延べ14日間、延べ92人の参加で行われました。

測定にあたっては、同一施設の複数地点で計測しました。一地点につき、地表面から1mの高さで3回、5cmの高さで3回ずつ測りました。空間放射線の特性を考慮し、機種の異なる複数の測定器を同時に用いました。データの採用には、中間的な数値を示した測定器の数値の平均値を出すという方法を採りました。さらに、空間放射線量が比較的に高かった地点では土壌を採取し、民間機関である「日暮里放射能測定所」でその中の放射性セシウムのベクレル値を測定してもらいました。

表1は、東京オリンピックが開催される場合に使用される予定施設における放射線レベルの概況を示しています。福島原発事故直前の東京都の放射線量の平均値は0.04μSv/h前後とされ、放射性セシウムはほとんど存在しなかったので、それを上回る放射線量は原発事故の影響と受けとめることができるでしょう。表2は、採取した土壌の測定値をレベルごとに示しています。   

表1●
地上1mにおける空間放射線量(単位:μSv/h) 地点数(37施設中、36施設で152カ所)
0.05未満 9
0.05〜0.10未満 102
0.10〜0.15未満 36
0.15〜0.20未満 3
0.20以上 2

表2●
地表から深さ5cmまでの土壌の単位重量当たりセシウム134+137量
参考:UNEP/1996年
ヨーロッパ汚染地図における
セシウム137量区分より
(単位:1000Bq/m2) 土壌深さ5cm中のセシウム134+137量

(単位:Bq/kg)
検体数

(採取した検体数は38)
less than 2 30未満 1
2~10 30〜170未満 9
10~40 170〜670未満 21
40~185 670〜3000未満 6
185~1480 3000〜24700未満 1*

* 3042.7 Bq/kgという異常に高い数値を示した土壌は、陸上競技場のトラックの塗装を剥がした残土のようなもので、近くの空間線量が高かったので採取した。その他の場所では、特にホットスポットのような場所で土壌採取はしていない。

以上の表1と2とは別に、参考として、施設ごとの空間線量および土壌のセシウム134+137量の総括表とその詳細を示した表を、この手紙に添付します。私たちの測定データを「選手や観客の被ばく可能性のデータ」として理解され、この資料を開催地選考にあたって活用してい頂きますよう希望いたします。また、これらデータはeメールでもお送りしますので、関係者の皆さんでデータを共有していただきたくことができると思います。

なお、IOCとして、東京の食料の放射性物質による汚染にも注意を払いたいと考えておいでなのではないかと思います。なぜなら、オリンピックおよびパラリンピックに参加する選手、IOC役員やスタッフ、観客などは、東京が開催地となった場合、日本で生産された食物を食することになる可能性が大きいからです。もし、食品が汚染されているなら、それは内部被ばくの主要な原因となります。

たとえば、ドイツ放射線防護協会は、福島第一原発事故直後の2011年3月20日、日本に対し、「乳児、子ども、青少年に対しては、4 Bq/kg以上、成人には8 Bq/kg以上のセシウム137を含む飲食物を摂取しない」よう勧めました。しかし、日本の厚生労働省は、事故直後に逆に、多くの食品について500Bq/kgまで許容線量を引きあげ、2012年4月1日から適用した新基準でも、一般食品は100Bq/kg、牛乳・乳児用食品は50 Bq/kg、飲料水は10 Bq/ℓという高い摂取量を認めています。加えて、食品中の放射性物質に関する規制と検査体制はいまだ不十分であり、加工食品の検査はメーカー任せの現状にあります。東京におけるオリンピック予定施設の放射線量と合わせて、この観点からも見ていただければ幸いです。

最後に、私たちは、東京におけるオリンピックおよびパラリンピックの候補会場の放射線量のデータを、東京都民はもちろん、世界中の市民にも公開する予定です。放射線被ばくの問題が、オリンピックおよびパラリンピックにも及ぶようになったのは残念なことです。しかし、この現実から目をそらすことなく、賢明な決定をすることが、世界の市民としての私たちの責任であります。貴下およびIOC委員の皆さんにも、この点につきまして同意していただけると思っております。

敬具

測定結果のPDFについて

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